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雨夜

スターアニスの強烈な香りが
まだ鼻のちかくに漂っている
外は、いま、雨
一杯のパスティスに
病み上がりの頭を酔わせながら
わたしは人生ではじめての蔵書票を
ある一冊の本に貼った

外は雨

わたしが生まれたとき
病院の外は嵐だったと母から聞かされた
真夜中一時過ぎ
雨風の音の谷間に
産声をあげたのだ
「おまえはあらしの夜に産まれたのよ」
わたしはそのことを強く記憶している
いったいなぜか
おそらくそれはわたしの気に入ったのだ
晴天の昼に生まれてくるわたしではない
嵐の真夜中が
なぜかしら自分にふさわしく思えたのだ

わたしが生まれたとき
戸外にいる人たちはみなきっと
うつむいて憂鬱な顔をして歩いただろう
嵐だ
おまけに真夜中だ
もしかすると
外は人々より
魑魅魍魎のほうが
多く出歩いていたかもしれない
だれもそれには気づかない
だってみんな傘をさして
下を向いて歩いているのだから

パスティスの酔いと
睡眠薬の酔いが混ざりはじめている
意識は、白濁してゆく
水を注いだアブサンのように

外は雨

父は雨音を聴くのが好きだった
雨が降ると
家中のあかりをすべて消し
窓を開けはなち
その雨の吹きこんでくる窓辺に横たわり
死んだように横たわり
全身で雨音を聴いていた
わたしも一緒になってその雨音を聴いた
暗い家から見える外の雨は
街灯や他家のあかりを反射させ
みだらなほどに輝いていた
父はいつもそういうとき
いつもよりずっと穏やかになっていた

雨、外は、雨

わたしは今夜も胸のなかをのぞいてみる
自殺への衝動は、そこにいる
そこにいて、ふるえている
ぽ、ぽ、ぽ、
と、雨の音にうたれるように
胸の中でちいさくうごいている

外は雨

蛙がよろこんで走り回っているだろう
今日の昼にわたしが植えた花も

わたしが死ぬときも
どうか今日のように
雨が降ってほしい
なぜという
特別な理由はない
なぜかしら、それがわたしにふさわしく思えるのだ

外は雨

指の先まで
血管のなかをすさまじい勢いで
水が流れていくのがわかる
心臓が一定のリズムで
水を送りだしているのがわかる

外は雨
ただの、どこにでもある一夜
けれどこれは、わたしだけの一夜




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自己紹介

偕誠

Author:偕誠
a.k.a.破裂
1983年生まれ。
東京都在住。
双極性障害と苦闘しながら
詩作に励んでおります。


※拙文ではありますが著作権は当方にあります。
無断転載等はご遠慮くださいませ。

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