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日記10-25

朝、いつもとたいして変わらぬ朝
ぼくは死を忘れていた
自分がいつか死ぬことも
自分の大事な人がいつか死ぬことも
そして
それを忘れていることが幸せであることも
忘れていた

朝、いつもの顔ぶれがそろう
笑顔やねぼけまなこが並んでそろう
挨拶をかわし、車に乗り込む
退屈な赤信号、仕事前の軽口
これもまた、いつものこと

先日からの引き続きの現場にはいる
一人の男性が小走りにかけよってくるまでは
「日常」のなかにぼくらは包まれていた

男性は言った
「どうも人が死んでいるようだ」
男性は取り乱していたので、わらにもすがる思いで
ぼくらに声をかけたのだろう
それもそうだ
曇りですこし寒いだけの、なんてことない朝だったのに

松の林の中に彼はいた
いや、彼の遺体が「あった」
男性はぼくをつれて、あれ、あれ、と指をさす
太く黒い松の幹はすなおに空へ伸び
そのたくましい幹に、堅固に何重にも巻かれたロープの
その痛いほどの白が目に刺さった

新しく買ったロープで、首をくくった
人知れず、公園の、松の林のかげで
理由もわからない
誰かも知らない
けれど彼は大きな声で
ぼくに死を語っていた
それはあまりにも大きな、透明な声だった

警察を呼んでから、仕事に戻る
2、3の聴取はすぐに終わった
かたがついて
警官も、発見者の男性も、同僚もみな笑っていた
笑って、日常を出迎えていた
そのこころの隅に、暗いしみを残して

仕事に戻ったぼくは
考えるでもなく、土や草にまみれて働きながら
歌っていた
口の中で、何度も、何度も、何度も、
繰り返し歌った

「Knock knock knockin' on heaven's door」

死を選ばざるを得なかった者の
かつて生き、意欲したその体をそのままに
天国へのドアは開いたんだ
そこへ彼は旅立っていったんだ
重たい、肉の体を残して

どうか、もうなにも心配のない世界であるように
苦しみ、一人で死んでいった男の魂が
どこかで安らかに眠れるように
ぼくは弱い自分自身をそこにかさね見て
そうして歌っていた

「Knock knock knockin' on heaven's door」

天国があるなら
どうかいいところであるように
ないならば
その眠りが安らかであるように

ぼくは明日も生きる
天国のドアが
あちらからノックされたとしても
自らそれを開けることはしない
そして歌う
生きているよろこびと
死んでいくかなしみを





R.I.P




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いのちの初夜

…やはり止める気がしませんでしたのじつと見てゐました。もつとも他人がとめなければ死んでしまふやうな人は結局死んだ方が一番良いし、それに再び起ち上がるものを内部に蓄えているやうな人は、決まって失敗しますね。蓄えているものに邪魔されて死にきれないらしいのですね。僕思ふんですが、意志の大きさは絶望の大きさに正比するとね。意志のないものに絶望などあらう筈がないじやありませんか。生きる意志こそ絶望の源泉だと常に思つているのです。…
北條民雄「いのちの初夜」より抜粋

otosimonoさん

コメントありがとう。

> …やはり止める気がしませんでしたのじつと見てゐました。もつとも他人がとめなければ死んでしまふやうな人は結局死んだ方が一番良いし、それに再び起ち上がるものを内部に蓄えているやうな人は、決まって失敗しますね。蓄えているものに邪魔されて死にきれないらしいのですね。僕思ふんですが、意志の大きさは絶望の大きさに正比するとね。意志のないものに絶望などあらう筈がないじやありませんか。生きる意志こそ絶望の源泉だと常に思つているのです。…
> 北條民雄「いのちの初夜」より抜粋

同感です。
いきる意思があるからこそ絶望はうまれるのでしょうね。
そして絶望から、強大な意思がうまれることも。
日常を切り裂くような、得難い体験をしました。


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自己紹介

偕誠

Author:偕誠
a.k.a.破裂
1983年生まれ。
東京都在住。
双極性障害と苦闘しながら
詩作に励んでおります。


※拙文ではありますが著作権は当方にあります。
無断転載等はご遠慮くださいませ。

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