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抱擁

しろい
かよわい白鳥を
ぎゅっと抱きしめている
見えない涙が
そのちいさなあごから
したたる
なにを見ていただろう



階下から母親の声がする
時間がせまってきていたのだ
放課後の夕焼け空は いつの間にか
星がちらつきはじめる 紺色の空になっていた
不自由な おさない恋は
つねにせまりくる時間とのたたかいだった

「もう帰らなくては」
少年がそういうと
少女は腕にぐっと力をこめた
「お母さんに怒られてしまうよ」
少年の首筋にまかれた
ほそく しろいその腕は
一体
何を抱きしめていたのだろう

いつまでも離れられない
恋の磁力に
少年はほほを紅潮させた
少女がこうまで
自分を求め
自分を必要としていることに
かれは目に見えぬ王冠を戴いた気分さえ感じた

少年は明日もまたこうして
少女と時間を過ごすことを予想していた
そうしてそれが
いつまでも続くと
信じて疑うこともなかった
胸の中にともった灯が
どんな風のなかにあっても
消えずにともり続けるものだと思っていた


十数年のときをへて
灯は消え
燃えかすだけが のこされた
その残骸を見るたびに
かれは胸をチクリと痛める
そしてあの灯をおもいだすばかり

そうしてあるとき
はたと気づく
あのとき少女が抱いていたのは
ただ 少年の 細い首ばかりではなかったこと

少女は
時間そのものを抱きしめていた
時の不可逆を知っていた
恋の短命を知っていた
経験からではない
おそらくそれは女の遺伝子の知恵によるもの
男はほほえみ
かわいいやつだと頭をなでるが
女の全霊こめた抱擁には
まるで かなうはずもなかった

少女は時間ごと恋人を抱きしめ
かれの人生をまるごと包み込んでいた
その場の別れをおしんでいたのではなく
あまりにもはかない人生と恋と
そうして無慈悲に通り過ぎていく時間そのものを
少女たちはその場につなぎとめるように
抱きしめていたのだ

男たちには
それがわからない
だから
十数年をへてやっと
自分はあのときの少女に
いまだに抱きしめられていることを
知るのだった

日々モノクロに薄れていく
頼りなげな記憶の中で
少女たちの姿だけが
いつまでも極彩色に輝いている

少女の抱擁が
一生の一秒に
永遠のいのちを与えてしまったのだ







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偕誠

Author:偕誠
a.k.a.破裂
1983年生まれ。
東京都在住。
双極性障害と苦闘しながら
詩作に励んでおります。


※拙文ではありますが著作権は当方にあります。
無断転載等はご遠慮くださいませ。

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