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おもひで

十五歳、心の中に悲鳴があった
彼はその悲鳴にとらわれまいともがくことが
まったく無意味だということをもう知っていた

十五歳、力に満ちた腕をふりあげた
その先に破壊の夢だけを求めていた
人を傷つけることはまったく無意味だった

十五歳、自分を傷つけることにも倦んでいた
夏の日の午後は酷薄だった
彼はいたたまれなさだけをポケットにしまっていた

十五歳、はみだした腕力がはね踊った
白く明るすぎる廊下で
彼は逃げ場をついに失った
突き刺すように
壁をなぐりつけた
皮がだらしなく剥け
そのいくらかを壁に残した
血がくすぐるように滴り
色のない廊下の床に散った

十五歳、耳はまるで聴こえないように見えた
いくつかの教室から漏れていたいくつかの声が
一斉にとまり
それとほぼ同時に
いくつかの顔が
ぬらりと廊下にのびてでてきた
それらの顔をみて彼はつぶやいた
「まったく、さえねえ」

十五歳、もう一度ありったけの呪いをこめて
壁をなぐった
もう一度
自分の内側にある爆発音に
まったく似ていないその音に
絶望を感じながら
もう一度
廊下の
明るすぎて色を失った床に
執拗に血がとび散った
女生徒たちの喚声
仲間からのあおり
好奇、侮蔑、怒り、羨望
ぐちゃぐちゃに織り交ざった視線が
彼の背中にちくちくささったものの
彼はまったく意に介すことないと演じ
もう一度壁をなぐった
すでに壁は血だらけだった

十五歳、そろそろ骨が見えやしないかと
期待しながらこぶしを見る
ガクガク震えている
「救えねえ」
つぶやく
教員があつまり彼を囲んだ
白い夏の陽は酷薄だった
彼にはなんの関係もないところで
太陽が燃えていたのだ
一人の教員が彼の肩をわしづかみ
強引にひきよせた
教員はそこに予想を裏切る表情をみた

十五歳、憎しみだけを原動力にして
怒りだけを方法としてあがいていた
それは狂った餓鬼の顔ではなく
迷子の、餓えた、泥まみれの、子犬のそれだった
教員がそう思ったことに、彼は気づいた
これ以上の侮辱はないと感じた

十五歳、頬にひとすじ、涙がこぼれた
体をからめとろうとするいくつもの腕を
おしのけ、すりぬけ、彼は逃げた
どこへいくんだ
教員の怒号に彼は答えた
「自らの静脈管の中へです」
それは声に出さなかった
声に出しても仕方がないと思ったからだ

十五歳
まばゆいばかりの生の輝きと
自殺への狂おしい衝動が
平気な顔して共棲していた
彼はまだ
自分を狂人だとは思わなかった
この世界が狂ってるのだと
信じて疑いもしなかった
血をたらしながら
廊下を歩く彼のあとを
追う友人のひとりとてもなかった






『瓦が一枚はぐれました
これから春の日の夕暮は
無言ながら前進します
自らの静脈管の中へです』 ――中原中也





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secret

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No title

15歳かぁ・・・

私も、それくらいの年の頃から
病気の兆候があったんです。
よく思い出します。

不安と絶望の中で
死の恐怖や世界の終わりを考えていました。
ただ怖かったです。

行動には出しません
ただ、おびえていました。

誠さんも、そんな感じだったのかな

光里さん

コメントありがとう!


> 私も、それくらいの年の頃から
> 病気の兆候があったんです。
> よく思い出します。

やっぱりそうなんですか。
ぼくもよく思い出します。

> 不安と絶望の中で
> 死の恐怖や世界の終わりを考えていました。
> ただ怖かったです。
> 行動には出しません
> ただ、おびえていました。
> 誠さんも、そんな感じだったのかな

そんな感じでしたね、まさに。
おびえることから逃げるために
いかり狂っていたのだと思います。
恐怖をごまかすために、暴れていたのでしょうね。
最近、昔の自分を少しずつ許せるようになってきました。

No title

 15歳から16歳の頃ってパンドラの匣のような時代ではないかと思っています。
 意思をもって、現実の、或いは理想の蓋を開き、様々なものに触れ傷ついた後に、少しだけ残されたものを、どう名づけるかは人それぞれでしょうけれど。

otosimonoさん

コメントありがとう!

>15歳から16歳の頃ってパンドラの匣のような時代ではないかと思っています。
>意思をもって、現実の、或いは理想の蓋を開き、様々なものに触れ傷ついた後に、
少しだけ残されたものを、どう名づけるかは人それぞれでしょうけれど。

残されたそれを希望と名づけるのは、
それが希望であれという願望のようにも思えますね。
希望が残ったということは
それから先のいくえにもかさなりつづける絶望を
示唆しているのだろうと、若いころは思ってました。
いまは、匣にはなにも入ってなかった、と思いつつあります。

No title

心が確実に悲鳴をあげていること
なんだかわからないけれども
感じる焦燥感や苛立ちや感情の浮き沈みを
どう表現していいかわからない
揺れ動く感情が、これでもかというくらいに込められた作品だと思いました

生きることに純粋すぎるくらい純粋で透明な心を持っているから
傷つきやすいし、澱んでいってしまうことが解りすぎるくらい解ってしまう
どうしてこんなにも生きづらいのか
周りの人間が、みんなそうというわけではないかもしれないが
うまく帳尻を合わせて生きているように思えてくる
まるで自分ひとりだけが、まったく違っているような感覚
一体、狂っているのは周りなのか、それとも自分なのか

どこにもぶつけようのない感情を
壁にぶつけてみても
そこになんらかの応えを見出そうとしてみても
跳ね返ってくる痛みは自分に返ってくるばかりで

静脈菅って、心臓から送り出された血液が動脈を通って
体中を駆け巡り、
そしてその血液がもう一度心臓へと還っていくための通り道ですよね
もう一度心臓に還り、生まれ変わりたいという願いのような
できるものなら、こんな自分を浄化してしまいたいという願いのようにも
聞こえてきます

わりと長い詩ですが、ぐいぐい惹きこまれてしまいました
私自身にも思い当たるところが結構あって
突き刺さる詩だと思いました

陽炎さん

コメントありがとう!

> 心が確実に悲鳴をあげていること
> なんだかわからないけれども
> 感じる焦燥感や苛立ちや感情の浮き沈みを
> どう表現していいかわからない
> 揺れ動く感情が、これでもかというくらいに込められた作品だと思いました

病気のいやな兆しは、もっと幼いころからありました。
いまでこそ「病気」と自分で言えるようになりましたが
そのころは単に、周囲との「違和感」であり
「狂気」への漠然とした不安でしかなかったのです。


> 生きることに純粋すぎるくらい純粋で透明な心を持っているから
> 傷つきやすいし、澱んでいってしまうことが解りすぎるくらい解ってしまう
> どうしてこんなにも生きづらいのか
> 周りの人間が、みんなそうというわけではないかもしれないが
> うまく帳尻を合わせて生きているように思えてくる
> まるで自分ひとりだけが、まったく違っているような感覚
> 一体、狂っているのは周りなのか、それとも自分なのか

まさに。
ぼくは周囲が狂っていること、疑うことすらなかったです。
なんでこんな狂った世界に生れ落ちてしまったのか、
悔やむべきでないことを、悔やんでいたのですね。
醜く、かわいい、ぼくの十五歳です。


> どこにもぶつけようのない感情を
> 壁にぶつけてみても
> そこになんらかの応えを見出そうとしてみても
> 跳ね返ってくる痛みは自分に返ってくるばかりで

ぼくは痛みをとおして、あるいは血をとおして
生きている感覚を得ようという人ではなかった。
だからリスカなんかもあまりしなかったです。
ただ、己を傷つけることが、周囲への呪詛になりはしないかと
そう思って、暴力にふける日々がありました。


> 静脈菅って、心臓から送り出された血液が動脈を通って
> 体中を駆け巡り、
> そしてその血液がもう一度心臓へと還っていくための通り道ですよね
> もう一度心臓に還り、生まれ変わりたいという願いのような
> できるものなら、こんな自分を浄化してしまいたいという願いのようにも
> 聞こえてきます

「還流路」ですね。そのまま血流にのって
心臓へと還りたいのか、あるいは自ら心臓に突き刺さる
ひとつの短剣になりたいのか。
子宮へかえりたいと思ったことは一度もなく、
ただ内側へどんどん丸くなって、そのうち消えてなくなることを
願っていました。自己圧縮です。


> わりと長い詩ですが、ぐいぐい惹きこまれてしまいました
> 私自身にも思い当たるところが結構あって
> 突き刺さる詩だと思いました


もっと短くしたかったのですが、ついつい。
丁寧、詳細なコメントありがとうございます。

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自己紹介

偕誠

Author:偕誠
a.k.a.破裂
1983年生まれ。
東京都在住。
双極性障害と苦闘しながら
詩作に励んでおります。


※拙文ではありますが著作権は当方にあります。
無断転載等はご遠慮くださいませ。

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