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毛布【思い出し書き】

少年はナイフをもって立っていた
右腕は、あんまりナイフを強く握るから少々疲れてきていた
どっしりとした重みのある時間がもうだいぶ経っていた
少年は、自室の押し入れの前に立っていた
古ぼけた、みすぼらしい押入れのふすまの前、仁王立ち
大分汗をかいたのだ
両肩から蒸気がもうもうとわきあがり
月影の部屋に一種異様なまじない効果をもたらしていた

少年はかねてから計画をしていたあることを
この月夜に決行したのだ
それは大胆な犯罪で、そして苦労の末の表現のひとつだった
ナイフはドイツ製だった
殺傷以外のなにものも目的としていない
という雰囲気が好ましくて
少年はこれを買った
おかげで彼の貯金はまったく底をついたのだが
そのことさえ誇らしかった
ナイフを贖った苦労の分、そのナイフにいくばくかの価値が
さらに付加されたというわけで
それは大変喜ばしい誤算だったのだ

少年は勃起していた
押入れをぢっと凝視し続けながら
それを彼は恥と感じた
若さのたぎる隆起が
ジーンズのなかで死んだようにおとなしくなるまで
彼はいくらでも待つつもりだった
荒かった息もだいぶ落ち着きをとりもどし
股間の隆起もなんとかおさまった

彼は何度も逡巡を繰り返し
狭い部屋の中を右往左往していた
ぶつぶつと不明瞭な
言葉ですらないようなつぶやきをもらしながら

何時間、そうしていただろうか
開け放しの窓からの冷気に
彼の汗はすっかり冷えていた
はっとそれに気づいた彼は
押入れをサラサラと開けて
がっと毛布をひっつかんだ
そのとき、目があってしまった
押入れのなかの少女と

不覚!

彼は叫んだが、それは大気を振動させることはできなかった
のどの奥のほうで、猫のようにゴロゴロとなっただけだ
彼は左手に毛布をつかんだまま、右手に臨戦態勢を指令した
やつれたセーラー服をまとった憔悴の少女は
ぼんやりとうつろな目を半開き
彼を見るやら、その向こうを見るやらしていた
その対峙がまた数分の沈黙とともにあった

作戦の遂行
これはもう、まちがいなく絶たれてしまった
恐怖するでもなく、怒りをあらわにするでもなく
ただぼんやりとこちらの方を眺めている
この美しい少女に
ぼくは負けたのだ
彼はそう思った

六畳間の真ん中の畳に
その「愛用」の刀のようなナイフをどすりと突き刺し
少女に向けて毛布を投げた
彼女がそれを受け止めるのを見ると
彼は静かにふすまを閉じた

とりあえず朝まで休もう

通りまで走って行って
誰かに保護されるまで騒げば
すぐに少女は助かり
少年は逮捕されたに違いない
少年は莫迦ではないから
そのぐらいのことはわかるはずだった
それなのにうかつにも
彼はそのまま突き立てたナイフのすぐよこで
寝息を立てて眠りはじめてしまった

やがてしじまに少年の寝息だけが存する世界となった

そろそろとふすまを開けた少女はつま先立ちになって
玄関へひたひた歩いていき
そっとドアを開け、あとは一目散に駆け抜けるだけだった
けれど少女は、自分のかけていた毛布を
少年の肩からひざまでかけてやり
その半分に、自分もくるまりにいった
背中あわせで、だいぶ暖かい寝床になった



なぜ、少女が逃げださなかったのか
筆者には納得できない。
だいたい思いだしてみるとこんな展開だったろうけれど
感性がまるで違うから、いけない。
これは十五歳の時に、初めて書いた短編の
「思い出し書き」なのだ。
当時のフロッピーも存在せず、原稿もない。
たしか、少年と少女の間に一往復だけの会話があり
それがこの物語に妙な納得感を与えていたし
これを呼んだ友人も、そこがいい、という者が数人いたが
そこが意味わからん、という者とがほとんどだった。
その会話が、どうしても思い出せない。
まるで別人の書いたものを思い出そうとしているようだ。
好きな作家のものなら思い出せそうなものだが。
あの会話がどうしても思い出せないのだ。


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偕誠

Author:偕誠
a.k.a.破裂
1983年生まれ。
東京都在住。
双極性障害と苦闘しながら
詩作に励んでおります。


※拙文ではありますが著作権は当方にあります。
無断転載等はご遠慮くださいませ。

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