FC2ブログ
1012345678910111213141516171819202122232425262728293012

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
にほんブログ村 ポエムブログ 散文詩へ
にほんブログ村

表現できぬという苦しみ。

病院につくと、家族はもうすでに集まっていた。

ICUには、二人ずつ、五分間しか入れない。

まず、ぼくと母が面会。


父は透析中だった。

母が声をかけ体に触ると、うすく目をあけた。

ぼくが来ていると伝えると、

目を開き、首をゆっくり動かした。

昨日は話せた、と聞いていたが、

今日は、この時点で二度の心室細動をおこしていて

呼吸器ははずせない。

つらいね。

頑張ってるね。

昨日の話は妻ちゃんから聞いたよ。

勉強頑張ってるよ。

ぼくは絶対に受かるよ。

確信してるよ。

そう言うと、安心したのか、

父は顔をしかめた。

笑ってるようにも、泣いているようにも、みえた。

つらい?

透析、つらいね。

頑張ろうね。

首をふる。ちがうのか。

一所懸命、話そうとするが、喉の奥深くまで挿さっている

呼吸器が、無情にも(ああ、本当に無情に思えた!)

言葉をうませてくれない。

舌が、わずかに動いている。

一言ずつ、言葉を切りながら伝えようと、父はもがく。

お、か、あ、さ、ん、を、た、の、む、ぞ

だろうか。

つ、ま、ちゃ、ん、と、な、か、よ、く

だろうか。

ゆ、め、を、か、な、え、ろ、よ

だったろうか。

息子なのに、まったくわからない。

わかってやれない。

この悔しさは、文字どおり、生まれてはじめての体験だ。

生半可なものじゃあ、ない。


話そうとすると、喉の奥に挿さっている呼吸器のために、

顔が歪む。おそらく、相当苦しいのだ。

それでも、伝えたいことがあるのだ。

ぼくは、軽いパニックを起こしていた。

話さなくていいよ、苦しいでしょう?

父は顔をゆがめて、首を強く横にふる。

伝える、という思いが、命が、

父の細く弱った体の中から、転がり出してくる。

喉が、苦しそうだ。

のどが苦しいの?

うん、うん。うなづいた。

とってほしいの?

うん、うん。うなづく。

でも、それがなければ、すぐに死んでしまう。

父は、頭はまだ澄んでいるから、そのことはわかっている。

そうまでして、伝えたいことがあるのだ。

遺言、なのだろう。

やりとりを繰り返すうちに、

もどかしさから、父が暴れ出した。

暴れる、といっても、その力は、かなしいほどに弱い。

管や、コードがたくさん体についているから、

すぐに機械が異常をしらせる。

看護士さんたちが飛んできて、面会は終わった。



上階のラウンジで待つ姉と妹の下へ帰り、

どうだった?という問に、

透析中だった、としか答えられなかった。

テーブルに突っ伏して、ひたすら涙を流した。




来るときの豪雨で濡れた全身が、異常に寒く感じた。

自分の無力さに打ちのめされることを、自分に許したくなかった。

泣くことさえ、許したくなかった。

でも、勝手に流れだした涙は、どうしたって止められなかった。



姉と妹の面会が終わったころには、涙もとまり

放心状態から戻ってきていた。

ほかの患者さんからの視線にも気づいたが、

いつものように、はずかしく思うことは、まったくなかった。

母が主治医に呼ばれた。

自宅にかえられても大丈夫です、とのことだったらしい。

みなで、実家に帰る。


妹が飯をたくさん買ってきて、

ぼくに食うようにすすめた。

思いつくかぎりのもっともくだらない話をえらんで、

しいて笑いながら飯をかっこんだ。



妹は自室へ。

母も自室へ。

ぼくは実家に部屋がないから、父のベッドで休んだ。

父の携帯には、ここ数年間の家族とのやりとりがすべて残されていた。

読んでいるうちに、洪水のような思い出のなかで、眠っていた。



起きると、妻がきていて、リビングで母と談笑している。

この二人の女性の強さ、明るさに、何度救われてきたか。

ふたりの、とりとめのない話と、そのなかに織り込まれる笑い声を聞きながら、

また眠った。


姉夫婦が来た。

車で妻を乗せて、面会へ。

ぼくはそのまま帰るため、バイクで。

もう、外は夜だった。

父は眠っていた。四人とも、誰もあえて起こさなかった。

誰の胸にも、明日を信じたいという

はかない希望があったのだと思う。

父の耳もとで、父さん愛してるよ

と囁いて、ICUをでた。



妻は電車で、ぼくはバイクで帰路についた。

こころは、からっぽだった。

帰って、猫にごはん。

妻が戻るまで、ひとり、泣く。

すぐにやめる。

ぼくは、泣いてる場合じゃない。

明日こそ、父の言葉を受けとめる。


ぼくは、父が旅立つまで泣かないと決めていた。

でも、今日、こらえきれなかった。

でも、今日、泣かないと、再度誓った。

悲しみは、父の死後に。

父が生きてあるうちは、感謝と孝行を。

悲しみは、いまは邪魔だ。


だって、いましかないのだから。


死の恐怖は明日がないということだ、と誰かがいった。

いま、その意味を体験した。

明日、彼に話そう。
明日、彼女に謝ろう。
やつも、いつかわかってくれるさ。

そんな甘い先送りが、もう許されないのだ。

明日の世界に、もうその人はいないのだ。

地球上、どこを探して回ってもいない。

完全な不在。

これほどおそろしいことはないじゃないか。

人はそのとき、愛のかけらを喪うのだ。

永久に喪うのだ。

愛にはシリアルナンバーが刻まれていて、

その人が消えると、喪われる。

愛は、常に、動詞だからだ。



自分は、いつ死んでもよいか?

覚悟はあるのか、それはたいしたもんだ。

しかし、準備は?

準備はできているのか?



父を見よ。

伝えたいことを残したまま、人は逝けないのだ。

父を見よ。

死を、正面から見よ。




父を見よ。

目を背けるな。

関連記事
スポンサーサイト
にほんブログ村 ポエムブログ 散文詩へ
にほんブログ村

コメントの投稿

secret

top↑

comment

NoTitle

お早う御座いますー

愛は、おかずのない米。

おかずが沢山ある時には、

米本来の甘さや旨みに気付かないけれど

他に何も無くなってしまってから

沁みるような米の旨さに気付くもの。

真剣に命と向き合う事で愛が生まれ

だから生が輝くのですね。

其れは最も大切な、贈り物だと思います。

一通目のお手紙出せたのですね。

囁きでも、きっと心のポストには届いた筈。

今度は、お手紙の、お返事が

貴方のポストに届くといいですね。



Neroさん、こんにちわ!
いつもコメントありがとう。

届いてるといいんですけどねぇ…

なんかいろいろ、考えさせられますよ。
落ち着いたら、書いていこうと思ってます。

trackback


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

top↑

自己紹介

偕誠

Author:偕誠
a.k.a.破裂
1983年生まれ。
東京都在住。
双極性障害と苦闘しながら
詩作に励んでおります。


※拙文ではありますが著作権は当方にあります。
無断転載等はご遠慮くださいませ。

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

リンク

Welcome!

OfficeK

応援おねがいします

ブロとも一覧

検索フォーム

RSSリンクの表示

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。