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10年ぶりの掌編

ひさしぶりに書いてみました。

自分の感想としては、書くことが面白かった。

読んでみて、あまりいい出来ではない、と思った。

投げかけてくださったテーマからも、少しずれたかな。

双極性障害を、材料にした。

これはぼく自身のもつ病気でもある。


本文を短くしたいあまりに、急ぎすぎてる気もした。

もっとゆっくり、じっくり書いてもいいのかも。

でも、長いの、ブログ向きじゃない気がするから、いいか。


お暇なときにでも、どうぞ。



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ループ


「ああ、またか…」
 あなたは表情を失った。乾いた口をかすかにひらき、恨めしそうにひとりごつ。
「またぜんぶ、いちからやり直しだ…」
 だらしなく溶けていく時計、ゆがむ窓枠、霧消するドアノブ、ガラガラと、崩れ落ちてくる天窓。瓦礫にうもれていく、生活。昼も夜もなくただ暗く寒い、あの部屋に戻っていく。あなたはまるで白痴のような顔つきになり、ぶつぶつと小言を繰り返す。
「またあの寒い部屋にもどるのか…。まだなにも、おわっていないのに…」

 あなたはさっきまでいた明るい部屋を思い、ひとり途方にくれている。瓦礫の散乱したこの狭苦しい、暗い、乾燥した部屋のまんなかで。意欲はあなたのこころからとびだして逃げ去った。もう追いつくことはできないだろう。目標は瓦礫の下敷きになり、その内臓を飛び散らかした。もう掲げることはできないだろう。そして、ドアノブの失われたあの重い黒い扉にうがたれた、ちいさな鍵穴の向こうに、わずかに見えるあわい光、あれがあなたの唯一の救い、希望である。けれど、あなたはそれに、きづかないでいる。
 あなたはこの部屋では、一人でいることを失い、一頭になる。それは家畜のかぞえかたと同じ。あなたは自分を、家畜の列にならばせる。あなたはみずから、尊厳を失い、ふるえる両手で顔をおおいかくすことに忙しくなる。
 暗い。底のしれない闇のなかで、絶望だけがたわわに実り、あなたの居場所を圧迫する。豊穣の虚無。むなしさにくるまれて、こごえながら、あなたは眠る。幾日も幾日も。

「ああ、またこの部屋にきてしまった。何度も、何度も、おなじことの繰り返しだ!」

 言葉は、放つと同時に吸いこまれるように消えてゆく。沈黙の壁に。あなたは、悲劇役者のみぶりになって、この狭い部屋を無意味に歩き回る。戸外には、光の雨が降っている気配があるというのに、あなたはこの部屋から抜け出すうまい策をみつけられずにいる。そしてただ、呆けたように、ぐるぐるとおなじところを回っては、つぶやく。

「ああ、くるしい!…ああ、くるしい!」

 苦しいのは、部屋の空気が循環していないからだ。よどみ、停滞しているその重い何かのせいだ。そこであなたが活動することは、まるで海底で野良仕事をするようなものだ。重いのは、鋤でも鍬でもない。その身にまとわりつく、黒いヘドロのような、その何かだ。それはあなたのまわりにこびりつき、はなれようとしない。あなたの足をからめとろうとし、あなたの目をふさごうとする。はじめは抗っていたあなたも、いつしかその重たいヘドロにくるまれて、諦める。そのときあなたは、光を完全に奪われる。
 耳にとどくのは、一定の音程を狂ったようにうなってはなつ、その何かの声だけだ。それ以外は寂寞の彼方へ押しやられている。意識さえ、あまりに静かで、あなたはその静けさにおののくばかりだ。すべて生活には音があるはずなのに、この部屋では、何も、何も聞こえないからだ。

「なにも聞こえぬならば、生み出すまでだ。ぼくは詩人だ。うたおう、うたおう」

 あなたは知っている。この部屋にいる間、あなたは家畜以外のなにものでもないことを。詩人であろうはずもない。なぜならあなたのインクつぼには、ヘドロがもみ合うように流れ込み、あふれ出し、凝り固まっているのだし、ペンを持つあなたの腕は、とうに闇の中にからめとられているのだから。
あなたはただ、目をひらこうと試み、言葉を吐き出そうと試み、壁を打ち壊そうと試み、そのたびに傷を負い、瓦礫の上にたたきつけられるばかりだ。その上、腕も、首も、みんな千々にきざまれて、棄てられる。乱暴に、強引に、無責任にうち棄てられる。それを拾い集めては組み立てて、またすぐに、バラバラになる。賽の河原によく似ている。
 
 うすくひらいたその目に見える、瓦礫の一片、一片をながめている。重い圧にまけて横たわり、ぴくりとも動かせぬその体をいとわしく思いながら、その瓦礫を見つめている。鋭い破片を見つけると、あなたはそれにとびついて、嬉々としてこう叫ぶ。

「いよいよ、ここまでだ、さあ、死のう! 死ぬべきときが訪れたのだ!」

 それでもあなたは、ほんとうは知っている。自殺はあなたにとって、解放の手段ではない。苦悩の末路でもないし、煩悶の結果でもない。
 あなたは知っている。その感情は、夜盗の様に、あなたの中に押し入って、いたずらに脅しわめいたすえに、あなたの過去もろとも命を奪い去ろうとする。あの震えた、卑しい、かび臭い声で、あなたを死へと連れ去ろうとする。あなたのこころは、すでに絶望に盗まれている。だから、わたしは知っている。口で死にたいといいながら、あなたが実はそうは思っていないことを。わたしにはこう聞こえる。
「よりよく生きたい」と。








 なんの予兆もなく、突然、ラッパが吹き鳴らされて、瓦礫は白い鳩に姿をかえ、いっせいに飛び立つ。飛びたちながら鳩たちは、闇を引き裂き蒼穹をあらわす。つきさすように光が降って、あなたはその目をはじめはおそるおそる、徐々に大きく見開いた。きりはなされた体はそれぞれにつなぎ目を探すようにもぞもぞと動き出し、肩と腕はつながり、指先がうごき、ようやく背中に骨をとりもどし、ギシギシきしむ音をたてながら、あなたはのっそり起き上がる。そして、空を睨む。
 あなたは、そこへ、一息に飛んでいける気になっている。

「ああ、なんて軽い体だろう!」

 重くのしかかっていた屋根は吹き払われて、大きな天窓がしつらえられている。そこから過剰なほどの光がこぼれ、無数の鳩のおとした羽毛が乱脈で軽快な音楽を奏でている。檸檬と蜜柑のかおりさえ、いまのあなたはかぎ分けられる。梶井と太宰の違いだってわかる。色彩が次々に花ひらいていく様を、あなたは恍惚の表情でみつめている。ひらくそばからその花たちは、あなたによって咀嚼され、あなたのなかでまた花開く。あなたは大きな声でうたう。そして狂ったように踊りだす。世界の歓喜を独り占めしていると、あなたは感じている。けれど、わたしは知っている。踊り狂うあなたに、影がないことを。おおすぎる光を浴びているのに、あなたには影がない!あなたはそれに気付かない。

「ぼくを呼んでいる声がする!」

 大きな窓の向こうから、無限の荒野が、ただあなたを呼んでいる。あなたはすぐにでも鋤鍬をもって飛んでいき、耕さなくてはいけない、と考える。考えると同時にあなたはもう飛び出している。
 あなたは経済を超える獣になる。財布の紐をぷっつと切って、耕地でないところにまで肥をまく。妻子は狼狽し、顔を伏せて泣くけれど、一度社会の循環にすてた金は、あなたが考えるほど、やすやすと戻ってはこない。それでもあなたは、ありあまるほどの富を抱えた豪商のような顔をして、平気で肥をまき続ける、不毛の地に。
 出会う人すべてに親友の顔を見せ、出会う人すべてと褥をともにしようとする。あなたは、神話の世界に生きているかのように、まったく自由な獣となる。
 その生活は過剰な色彩と音楽にみち、すすり泣きはかき消される。あなたは叫びに似て、短絡的で、独善的だ。わがままに動き回り、壁という壁をやすやす越え、溝という溝を難なくうめる。そして走り続け、歓呼する。生活をかえりみることはなくなり、パタパタとせわしげに、ただ衝動にのみ従順に、失った以上の光を奪い返そうと、大きな天窓のむこうに手を伸ばす。
 わたしはその先の空が、えがかれた、書割の空だと知っている。けれど、いまのあなたは、それを知るすべを何ひとつもたない。
 
「世界はみんな、ぼくのものだ!」

あなたは本気でそう思っている。空をいけば大気圏をもかるく越え、アンドロメダにも手が届く。地をもぐればマントルにもすぐとどく。あなたは本気でそう思っている。その過剰に明るい、狭い、狭い部屋からでられるはずもないというのに。
 あなたの部屋から光がたえたとき、あなたは軟体動物のように骨格を失い、しおたれた風船のように地に落ちた。それがいまでは、はちきれんばかりに膨らんで、いつ破裂してもおかしくないのに、まだまだ、光を吸おうとする。

「ぼくは全能だ、何でもできる、あれも、これも、いますぐしたい!」

 あなたは、暗い、寒い部屋にいたときの、屈辱を糧にして動く。二度とあの部屋に閉じ込められまいと、復讐のように、世界に臨む。
でも、わたしは知っている。神話の夢を見ているうちに、あなたはブレーキを盗まれていたのだ。もう自分では止まれない。手の届くものすべてをなぎ倒し、けとばし、ふみつぶして、あなたはいく、無限の荒野をめざして。誰の声もあなたには届かない。あまりに多くの音楽をまとうあなたに、あまりにも多くの色彩を夢見るあなたに、誰の声も、届かないのだ。あなたはみずから、破滅へ向かって、アクセルを踏み抜くのだ。…
そうしてひとり、つぶやく。
「ああ、またか」











…わたしはいま、あなたたちからは見えない世界にいる。
だからこうして、あなたたちを綴ることができるのだ。
いずれも愛すべきわたし自身であり、あなたたち自身であればこそ、わたしはこうしてあなたたちを綴るのだ。あなたがまた光の部屋に、あるいは影の部屋にとらわれたとき、わたしのことを思い出せるように。わたしのいる、この世界を愛し、この世界を目指してあるけるように、わたしはこの拙文をあなたたちに贈るのだ。

この世界には、光と影が存在する。それは人間のせいではない。したがって、あなたのせいでもない。
光だけではない、影だけではない。光の中を歩むものは、みずからの落とす影法師を見つめなくてはいけない。
影は、光のある証拠であり、あなたのある証拠なのだ。
あなたはあなたの影を見つめ、愛する必要がある。
この世界に、光を感じるために。





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secret

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NoTitle

素晴らしい!
こういう豪華な文体は大好物です♥
筒井康隆さんの「幻想の未来」を思い出しました。
っていうことは、SFも向いてるかもしれませんよ!?

何故二人称?奥さんの視点?と思って読み進めると、
「わたし」が自分を客観視できるようになった主人公だということがわかる構成もgood!

双極性障害の偕誠館主人さんだからこそ書けた作品だと思いますが、ここまでじゃなくても視野が狭くなっちゃうことって双極性障害じゃない人にもあります。
それを乗り越えるための知恵、――光の中で影を見つめ、愛する――もまた、双極性障害じゃない人にとっても役立つと思います。(Neroさんのブログテーマもそんな感じかな?)

もしもっと長くするなら、
視点をバンバン変えると面白いかなと思います。
奥さんとか、友人、同僚、ワンナイトラブの相手、猫、なんかの視点からその男を描写する。
読みたいわぁ*:.。☆..。.(´∀`人)

症状を誰かが操ってて・・・ってSFでもいいかもしれませんね。
躁のとき依頼を引き受けて鬱のとき推理する探偵でも面白いかも。

とにかく、次回作お待ちしてます♥







NoTitle

心の動き
すごく細かく、激しく書いています。
きれいごとではない世界ですね
私たちだからわかる世界です
光と影を行ったり来たり
分かっているけど、どうしようもないですね><

私たちの苦しみ
少しでも解放されるといいですね。

NoTitle

ピピネラさん、こんばんはー。
コメントありがとう。

アップするとき、すごく緊張というか、とまどいました。
ひさしぶりだし。でも、たくさんお褒めの言葉いただいたから
アップしてよかったと思いました。ありがとう。

派手な文体、すきですか。よかった。
ちょっと装飾過多かしら、と思いつつ
こういうの書いてみたかったので、衝動に素直に。
ぼく、中二病ですからw

視点をバンバンかえる、探偵、SF…
どれも面白そうですね!

書くことの面白さ、
思いだしたから、またポツポツ書いていきます。
いいきっかけをいただきました!
ありがとう!

NoTitle

ころなさん、こんばんはー。
コメントありがとう。

「きれいごとじゃない世界」とは、いい表現ですね。
そういう風に読んでいただけて、嬉しいです。
どうしようもない、影の部分、負の部分を
凝視して、ゆるしてあげて、いとおしく思えるところから
この病気の解放がうまれるんじゃないかと思うのです。
こうして仲間からコメントをもらったりすることも
それにつながっていく気がします。
ありがとう!

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自己紹介

偕誠

Author:偕誠
a.k.a.破裂
1983年生まれ。
東京都在住。
双極性障害と苦闘しながら
詩作に励んでおります。


※拙文ではありますが著作権は当方にあります。
無断転載等はご遠慮くださいませ。

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