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date :2015年07月05日

抱擁

しろい
かよわい白鳥を
ぎゅっと抱きしめている
見えない涙が
そのちいさなあごから
したたる
なにを見ていただろう



階下から母親の声がする
時間がせまってきていたのだ
放課後の夕焼け空は いつの間にか
星がちらつきはじめる 紺色の空になっていた
不自由な おさない恋は
つねにせまりくる時間とのたたかいだった

「もう帰らなくては」
少年がそういうと
少女は腕にぐっと力をこめた
「お母さんに怒られてしまうよ」
少年の首筋にまかれた
ほそく しろいその腕は
一体
何を抱きしめていたのだろう

いつまでも離れられない
恋の磁力に
少年はほほを紅潮させた
少女がこうまで
自分を求め
自分を必要としていることに
かれは目に見えぬ王冠を戴いた気分さえ感じた

少年は明日もまたこうして
少女と時間を過ごすことを予想していた
そうしてそれが
いつまでも続くと
信じて疑うこともなかった
胸の中にともった灯が
どんな風のなかにあっても
消えずにともり続けるものだと思っていた


十数年のときをへて
灯は消え
燃えかすだけが のこされた
その残骸を見るたびに
かれは胸をチクリと痛める
そしてあの灯をおもいだすばかり

そうしてあるとき
はたと気づく
あのとき少女が抱いていたのは
ただ 少年の 細い首ばかりではなかったこと

少女は
時間そのものを抱きしめていた
時の不可逆を知っていた
恋の短命を知っていた
経験からではない
おそらくそれは女の遺伝子の知恵によるもの
男はほほえみ
かわいいやつだと頭をなでるが
女の全霊こめた抱擁には
まるで かなうはずもなかった

少女は時間ごと恋人を抱きしめ
かれの人生をまるごと包み込んでいた
その場の別れをおしんでいたのではなく
あまりにもはかない人生と恋と
そうして無慈悲に通り過ぎていく時間そのものを
少女たちはその場につなぎとめるように
抱きしめていたのだ

男たちには
それがわからない
だから
十数年をへてやっと
自分はあのときの少女に
いまだに抱きしめられていることを
知るのだった

日々モノクロに薄れていく
頼りなげな記憶の中で
少女たちの姿だけが
いつまでも極彩色に輝いている

少女の抱擁が
一生の一秒に
永遠のいのちを与えてしまったのだ







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飯場者ブルーズ

わずかなデヅラでパンを買う
それは彼の毎朝の習慣
仕事が始まる二十分ほど前
会社のちかくの公園のベンチに腰かける

百円で買ってきたパンを
ちぎっては投げ
ちぎっては投げる
それはすずめを養うためだ

故郷の函館には
もう何年帰ってないだろう
飛行機など乗る金もなし
いちにち働いて食うだけで終わる

郷里は北国
死ねば帰るか
肉体労働の日雇いならば
動けなくなったら骨になる

すずめはチコチコ走り回るが
何倍もの大きな体のはとが
さっとパンをかすめてしまう
すずめは五羽 はとは二十羽

仕事が終われば
三日に一度は飲みにいく
十五年 通い続けている店に
体のどこかに泥をこっそりつけたまま

店のママのことなら家族よりくわしい
ママの妹は恋人だし
三歳だったママの娘は大学生になり
父の日になにがほしいかと尋ねてくる

ママの離婚の原因も
そのあいだの葛藤や苦悩も
かきまわす酒に こぼした涙も
彼はすべてを見守ってきた

死ねば本当に帰るだろうか
郷里に誰もいなくなれば
彼の骨はどこへゆくのだろうか
筋肉も体力もおとろえてゆくのに

動けなくなってしまえば
飯場から去るよりほかない
何も誰も保証などしてくれない
彼はその腕いっぽんで生きているのだ

昼になれば粗末なパンに缶コーヒー
すずめにやるパンをきりつめれば
もうすこしいいものも食べれるだろう
もうひとつ自分で食べれるだろうに

函館の夢を
見るだろうか
いまの彼をみている限り
函館よりも すずめのほうが郷里に近い







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自己紹介

偕誠

Author:偕誠
a.k.a.破裂
1983年生まれ。
東京都在住。
双極性障害と苦闘しながら
詩作に励んでおります。


※拙文ではありますが著作権は当方にあります。
無断転載等はご遠慮くださいませ。

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